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第46回日本食品照射研究協議会(2010年12月3日)

教育講演および討論会(概要)


教育講演2          「食品の自主回収と食品の安全性について」


森田 満樹(消費生活コンサルタント)


食品の自主回収は、食品関連事件が相次いだ2007年から、2~3倍に発生件数が増加している。その原因は、表示不適切が第一位で半数近い。次に品質不良・規格基準不適合と続き、異物混入は10%以内。社告や告知ネットでは、健康影響について明確にしているものはまれであり、法令違反について説明している事例はあるが、健康影響はないものが多い。また、回収理由を説明しているが、健康影響や法令違反等ではないものも多くある。

(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会(NACS)では、食品の自主回収問題の解決に向けて、実際の回収事例についての調査を行い、健康危害と法令違反の2つの観点からの事例の分類を行った。その結果、健康危害の恐れのあるものは全体の約1/4であった。

一方、他機関による製品回収と消費者意識に関する調査結果では、製品回収をしたものは、「健康被害があるので食べないほうがよいと答えた消費者が過半数」。「安全性に問題はなくても、理由があるなら回収しても仕方ない」と思っているなど、自主回収される食品は健康危害があると短絡してしまう実情や食品ロスの問題への消費者意識の欠落などが浮き彫りにされている。

残留農薬の基準値違反などの場合でも、その健康被害の有無については、基準値がどのように決定されているかという、用量反応特性やADIなどの食品リスクの考え方が不可欠であるが、なかなか消費者に浸透していない。国際的には、基準値の2倍以下のような違反について、分析やサンプリング法の不確かさの点からも、その扱いについて議論がされている。

諸外国の食品回収に関する取組みだが、米国の場合、FDAのリコール制度では、対象が年間100~200件前後で、リスク別にクラスⅠ、Ⅱ、Ⅲと区別している。(クラスⅠが過半数)。欧州の場合、EU域内でRASFF(安全警告システム)データベースがあり、域内で情報共有している。英国FSAでは年間リコール40~50件、市場撤収10件前後で、そのうち7割が食中毒菌等の汚染や異物混入で健康危害があるものとなっている。

このように、我が国の現在の自主回収の状況を俯瞰すると、健康影響の程度や対処方法を伝えないまま多数の食品が回収される事例が多く、本当に健康危害を考慮して対応すべき問題が埋没してしまう危険や、不要の回収により食品の廃棄ロスや環境負荷が増加するといという問題が浮き彫りにされた。そして、事業者の対応は、健康影響のレベルに応じて差異を設けるべきではないかという問題が提起されてきた。

NACSでは、この問題に対し「持続可能な社会の構築からの課題の解決が必要」と考え、消費者側から食の自主回収を見直す「リコールガイドライン」の策定に取り組んでいる。その中では、事業者、行政、マスコミ、消費者の役割を考え、これらステークホルダーとの議論を重ねながら、消費者の側からの提案をおこなうことで、実効性の高いガイドライン作りを目指している。

 

※講演では、照射食品の回収事例も紹介された。食品衛生法違反(規格基準違反)により管轄の地方自治体が販売禁止措置、回収命令を出したが、この時の都道府県のプレスリリースでは、違反内容の線量が伝えられ、さらに、「FAO/WHO(コーデックス委員会)は食品への照射の上限を10キログレイとし、これ以下の照射の安全性を確認している」(註)と、安全性については問題がないことが消費者に説明されていた。照射食品の回収事例は、健康影響はなく法令違反として回収される典型的ケーススタディとして、今後は、科学的な安全性と法制度による措置を分けて、消費者にわかりやすく伝えることが望まれる。

(註)1999年のWHOの見解では、10kGyを超えた照射食品の健全性を確認。2003年のFAO/WHOによるコーデックス規格の改定では、技術的な必要性が認められれば、10kGyを超えた照射も可としている。