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第46回日本食品照射研究協議会(2010年12月3日)

教育講演および討論会(概要)


討論会・話題提供1     「そこからですか!? 食品への放射線利用」

小林 泰彦(日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所)


放射線とは、不安定な原子(放射性同位元素)が安定な元素に変わるときに放出される「エネルギーの流れ」のことである。放射線は、物質を透過しながら作用する。この時瞬時に、均一に、かつ極めて局所的に化学反応を誘発する。これが高分子鎖の架橋、切断、重合などを引き起こし、グラフト重合や非加熱殺菌に応用される。非加熱殺菌の用途は、医療用プラスチック、包装材料、衛生用品、輸血用血液製剤、実験動物用飼料などがある。

食品照射は、食糧・農産物の損耗防止、衛生化と食中毒の防止、外来性の病害虫や病原体などの侵入防止(植物検疫)の目的で、食品や農産物に放射線を照射して、殺菌、殺虫、芽止めを行う技術である。これらの目的で処理された食品を照射食品と呼ぶ。その線量は目的に応じて、段階的に使い分けられる。一般に発芽防止や殺虫には殺菌より低い線量が用いられる。また、利用できる放射線の種類は、国際規格等でも、物質を放射化することのない低いエネルギーのガンマ線、電子線、エックス線に限定されている。

国内では、1967年から1983年にかけて原子力特定総合研究が実施され、バレイショ、たまねぎ、米、小麦、ソーセージ、水産練り製品、ミカンの7品目について、照射効果と健全性(安全性と栄養適性)が確認された。この結果をうけて、1972年にバレイショのガンマ線照射が許可され、1974年から、北海道のJA士幌で実用化された。

国際的には、照射食品の健全性について1970年ごろから連携した取組みがなされ、1981年には10 kGy までの健全性を確認したJECFIの報告書が出された。これを受けて、FAO/WHOの国際食品規格(Codex規格)が1983年に採択された。その後も、健全性評価や食品照射の実施規範、検知法などに対して継続的な取組みがなされた。その結果として、2003年のコーデックス規格の改定、国際植物防疫条約での基準整備(2003年)検知法についての国際標準法の採択などが行われた。(日本ではその後の明確な取組みがなかった)。

WHOは、定められた方法で放射線を使用すれば、新たに生成する化学物質による悪影響のおそれも、 栄養成分の増減も、加熱や乾燥、調理などの従来の食品加工の方法と差がない、と報告。 『過去の安全性研究では、照射食品を摂取することによる悪影響を示す証拠は一つもなかった』と評価している。

現在では、世界で香辛料の殺菌や植物検疫処理などの目的で照射が実施されている。その量は、国別では中国と米国が1,2位を占めている。品目では、香辛料や乾燥野菜などの植物性の食品原材料の殺菌が多い。日本で実施しているバレイショもある程度の量を占めているが、日本ではそれ以外の品目への検討は進まない。

このように、食料を安全に保存し、食品衛生を確保し、食生活を豊かで安全にするための技術の一つである食品照射が、何故日本では賢く利用できないのか!?