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第48回大会 教育講演会

平成24(2012)年11月30日(金) アルカディア市ヶ谷(私学会館)

 教育講演  

食品中の遺伝毒性発がん物質のリスク評価
畝山智香子 (国立医薬品食品衛生研究所)


 食品中には食材固有の成分として、カビや微生物の作る毒素由来、あるいは加熱などの加工による副生成物として「発がん物質」が多数存在する。発がん物質の中でも遺伝毒性発がん物質については、無影響量がないとみなし、合理的に達成可能なかぎり低く(ALARAの原則)管理するということが食品の分野では行われてきた。しかし、あらゆる遺伝毒性発がん物質をALARAだけで終わらせてしまっては、対象化合物があまりにも多く結果的に何も対策できないことになりかねない。
 各遺伝毒性発がん物質の発がん性の強さや暴露量は様々であること、発がん影響については見かけ上の閾値があることなどの知見をもとに、近年遺伝毒性発がん物質のリスク評価手法は大きく進歩している。香料などの極めて微量のものについては毒性学的懸念の閾値(TTC)という考え方が採用されつつある。食品中アクリルアミドなどリスクが無視できるほど小さくはないものについては、暴露マージン(MOE)という考え方でリスクの大きさを定量化し、多数の発がん物質についてリスク管理の優先順位をつけるという手法が一般的になりつつある。
 どちらも日本ではまだ本格的に導入されているわけではないが、限られたリソースで、最大限のパフォーマンスを上げるために、今後重要性を増していくだろう。このような発がん物質の評価についての歴史的変遷と最新動向について解説を試みる。
講演要旨


2-アルキルシクロブタノン類を指標とした照射食品の安全性解析
古田雅一 (大阪府立大学放射線研究センター)

 2-アルキルシクロブタノン類(2-ACBs)は脂肪の放射線分解生成物として照射検知の研究の過程で食品中に同定された。1998年、純粋化合物の2-アルキルシクロブタノン類を高濃度用いたDNAコメットアッセイの結果、DNA鎖切断の増加が認められ、遺伝毒性の可能性があるとの実験結果が報告されたことから、この化合物を含む照射食品の安全性評価に注目が集まった。さらに、1999〜2001年にドイツとフランスの合同チームのプロジェクト研究により、そのもの自体には発がん性はないが、発がん物質を同時に投与した場合にその発がん性を促進するプロモーション活性の可能性が指摘された。
 一方、WHOやEU食品科学委員会(EU-SCF)は、実際の照射食品中での生成量は極めて微量であり、過去に行われた59kGy照射された冷凍鶏肉による動物(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ビーグル犬)飼育試験で発がんなどの異常は認められなかったこと、,純粋な2-ACBsのエームス試験による変異原性は認められなかったこと等を根拠に、照射食品中の2-ACBsを問題視する必要はないという見解を示している。従って、照射食品を認可しているいかなる国の食品安全当局も2-ACBsを理由に規制に変更を加えたことは無く、国際機関等が2-ACBsを動物に投与してのさらなる毒性試験を主導することもなかった。しかしながら、2-ACBsの毒性に関する限られた情報が、照射食品に不安を持つ人々の懸念を大きくする状況が続いていた。
 我々は, 照射食品中に含まれる2-ACBsの遺伝毒性や発がんプロモーション活性の可能性について、より明確な科学的知見を得ることを目的として、食品安全員会が助成する公募型の研究事業に応募し、2009-2011年度の3年間の研究の機会を与えられた。本講演ではその成果の概要を紹介する。
講演要旨


 一般講演(研究発表)  

照射食品誘導ラジカルの緩和挙動

川村翔栄 (北海道教育大学大学院)

新しい形の食品照射のリスクコミュニケーション
市川まりこ (食のコミュニケーション円卓会議)

日本料理の食材への、放射線照射の効果や影響
千葉悦子 (食のコミュニケーション円卓会議)
照射食品の誘導放射能について
古田雅一 (大阪府立大学放射線研究センター)

食品添加物の放射線照射履歴の検知 -有機酸カルシウム塩及び原料-
関口正之 ((地独)東京都立産業技術研究センター)

貝類のESR及びTL法による放射線照射履歴の検知
関口正之 ((地独)東京都立産業技術研究センター)

グルコサミン及び錠剤の放射線照射履歴の検知
関口正之 ((地独)東京都立産業技術研究センター)